営業活動の属人化を防ぐための「情報」「ツール」「推進方法」のまとめ

営業活動の属人化は、いわゆる「俺の客」問題に端を発します。
俺の客問題とは、本来お客さまは「会社のお客さま」であるはずなのに、営業が「営業担当者個人のお客さま」であるかのように振る舞うことです。
- 名刺情報を渡さない
- 勝手にメルマガを配信させない
- 他の営業から連絡させない
- どのような提案をしているか見せようとしない
これらは俺の客問題が引き起こす、営業活動の属人化です。
この記事では、営業活動の属人化解消のために必要な「情報」「デジタルツール」、そして現場の心情に配慮した「属人化解消の進め方」をご紹介します。
営業の属人化解消に必要な4つの情報
営業の属人化を解消する手段は「情報の共有」です。まずは営業の属人化を解消するために必要な情報を4つに分けて整理します。

属人化解消に必要な情報1:顧客情報
営業の属人化解消の第一歩は、顧客情報の共有です。
- お名前
- 会社名
- 部署名
- ご連絡先
- 初回の接点
まずはこれらの顧客情報を共有し、「特定の誰かからしかご連絡できない」状況を打破しましょう。
顧客情報は単に名簿として管理するのでなく、後述する「案件情報」「活動情報」と紐付けられるように一元管理する必要があります。営業現場でよくある「担当者ごとに異なるExcelファイルで管理している」「紙の名刺が営業担当者の引き出しに眠っている」などは顧客情報を一元管理できていない状態です。

顧客情報を一元管理できていると、誰かが情報を追加・更新した場合、他の営業担当者も最新の情報にアクセスできます。
「顧客情報管理で売上アップを実現する基本事項」では、なぜ今顧客管理が重要なのかを噛み砕いて解説しています。あわせてごらんください。
属人化解消に必要な情報2:案件情報
案件(商談)情報とは、お問い合わせから受注までの進捗状況や、ヒアリングで明らかになったお客さまのご要望に関する情報です。
- 案件の進捗状況
- 案件に関わるお客さまの事業
- お客さまの現状
- ニーズ・課題
- 導入予定時期
- ご予算
- 検討しているプラン・サービス など
案件情報を管理する際は、案件の進捗状況まで含めて管理することが重要です。案件の進捗状況の管理は「パイプライン管理」とも呼ばれます。

パイプライン管理によって、正確な売上予測を立られるだけではなく、営業活動のボトルネックを発見・改善できるようになります。

属人化解消に必要な情報3:活動情報
活動情報とは、営業活動で発生した業務の「数」および「中身」を指します。
- 商談数・提案内容
- 架電数・架電内容
- メール送信数・メール内容
このような活動情報の分析から、営業活動の成功パターンが明らかになります。たとえば、以下のような成功パターンが明らかになれば、組織全体に共有し、標準化を検討しましょう。
これらの成功パターンは、営業担当者の活動情報を管理していなければなかなか見えてきません。
属人化解消に必要な情報4:営業ノウハウ
これまで営業担当者の経験と勘に頼っていた営業活動の成功パターンを、組織全体で共有しましょう。
- 〇〇業のお客さまにはこのトークが刺さる
- 経営層のお客さまはシンプルな資料のほうが目を通していただきやすい
- 商談後の後追いメールでこれをお伝えすれば案件が流れにくい
これらの成功パターンに加えて、「うまくいかなかったこと」を共有する文化も大切です。
成功には偶発的な要因が絡みますが、失敗には再現性があります。営業活動での失敗を「他の営業担当者が今後その失敗を回避するためのポジティブなもの」と捉え、推奨する文化があれば、同じ失敗を繰り返さない営業組織を作れます。
私たちが実践しているオンライン商談のノウハウは「オンライン商談のコツ18選|資料作成やプレゼンのコツ、Web会議ツールのおすすめ機能」でまとめています。あわせてごらんください。

営業活動の属人化を解消するデジタルツール
営業の属人化を解消するには「顧客情報・案件情報・活動情報・営業ノウハウ」の4つの情報を共有する必要があります。
極論「全ての情報を紙に書く」でも不可能ではありませんが、非常に手間がかかります。デジタルツール利用はほぼ必須です。
この章では、営業活動の属人化を解消する主要なデジタルツールをご紹介します。
Googleスプレッドシート
いきなり有料のツールを導入するのが難しい場合、Googleスプレッドシートなどの表計算ソフトで案件管理を始めてみましょう。営業担当者に情報入力に慣れてもらう、という意味でも、スプレッドシートから始める選択肢はあり得ます。
ただし、スプレッドシートはあくまでも表計算ソフトであり、顧客情報や営業案件を管理する専用のサービスではないことに留意しておきましょう。
- 誰かが記入フォーマットを崩してしまう
- 最新のファイルがどれかわからなくなる
- 顧客情報が増えすぎてファイルが重くなってしまう
スプレッドシートで案件を管理すると、いずれ上記のようなお困りごとが発生するはずです。このような場合は、後述するSFAなどの案件管理ツールを検討しましょう。
マケフリ記事「Excelで顧客管理する方法とテンプレートが不要になるExcelの技」では、Excelで顧客管理をする際の便利機能や注意点を解説しています。あわせてごらんください。
SFA
SFAとは、Sales Force Automation(セールス・フォース・オートメーション)の略語で、日本語で「営業支援システム」と呼ばれます。SFAは「営業活動の属人化解消」の文脈でもっとも名前が挙がるツールです。
多くの企業が様々なSFAを提供していますが、どのSFAも「顧客管理」「案件管理」「活動管理」の3つの機能は備えています。

SFAの価格は「ログインユーザー1人あたり数千円〜数万円」などの利用人数に応じて金額が決まるものが一般的です。
SFAの主要機能からCRMの違い、導入で失敗しないためのポイントを「SFA(営業支援システム)とは?担当者がこれだけは知っておきたいポイントのまとめ」で解説しています。SFAの基本をしっかり学びたいみなさまにおすすめです。
名刺管理アプリ
名刺管理アプリは、紙の名刺をスキャンし、デジタルに管理するためのサービスです。営業担当者の引き出しや名刺フォルダに名刺が眠っている状況を解消できます。
社内にデジタル化されていない名刺がある場合、まずは名刺管理アプリを使って名刺情報をデジタル化するところから顧客管理を始めてみましょう。
多くの名刺管理アプリは、単に名刺をデジタル化するだけでなく、以下の機能も備えています。
- 名刺の自動更新・組織ツリーの作成・タグ付けによるグルーピングなどの名刺情報を整理する機能
- メルマガ配信や商談管理・タスク管理などの、名刺情報を活用する機能
- SFAやマーケティングオートメーションなどの、名刺情報をより活用するツールと連携する機能
- スマホの連絡先と連携して、着信時に名刺情報を表示してくれる機能
名刺管理アプリには、sansanなどの有料のものから、myBridgeなどの無料のものもあります。名刺管理アプリがどんなものか知りたいのであれば、無料の名刺管理アプリをとりあえず使ってみることをおすすめします。
通話や会議を記録できるツール
通話やオンライン商談を「記録できる」ツールがあると、営業の提案内容やお客さまの課題をより見える化できます。具体的には、ZoomやbellFace、Amazon Connectなどのサービスが該当します。
Zoomを例に取ると、ローカルレコーディング(PCへの録画)なら無料プランでも利用でき、組織での共有が楽になるクラウドレコーディングは全ての有料プランで利用できます。
営業の属人化解消の進め方
現場の営業担当者に「今日からこのツールにこの情報を入力してください」とアナウンスしただけでは、運用は定着しないでしょう。
「共有の結果、自分のやり方が否定されるのではないか」
「自分が担当するお客さまに他の誰かが勝手に連絡するのは許せない」
「自分のやり方を共有した結果メンバーの成績が伸び、相対的に自分の成績が下がってしまうのではないか」
このような不安や不満を抱える営業担当者もいるはずです。最悪の場合、「ツールを導入したのに誰も利用しない」という事態に陥るかもしれません。
もちろん、仕事である以上「やると決まったことをやらない」営業担当者には問題があります。しかし、属人化の解消を推進する側が、現場の感情に配慮して進めると、運用が定着しやすいことも事実です。
この章では、現場の心情に配慮しながら営業活動の属人化を解消する手順をご紹介します。

属人化解消の進め方1:責任者を決める
営業の属人化を解消する責任者を明確にしましょう。もしもSFAやCRMなどの影響範囲が大きいツールを導入する場合、ツール活用促進チームを設立します。
情報共有を始めたばかりのころは、「情報共有によって得られる恩恵」より「情報共有の手間」の方が大きくなりがちです。現場の営業担当者からすると「余計な仕事が増えた」と感じることもあるでしょう。
誰かが矢面に立って推進しないと、属人化は解消されないままです。
属人化解消の進め方2:必要最低限の管理すべき情報を洗い出す
属人化解消のために管理する情報、つまり営業担当者に記入してもらう情報は「必要最小限」でスタートしましょう。「必要かどうかわからないけどとりあえず入力してもらう」運用だと、現場のモチベーション低下に繋がるためです。
運用が定着してくれば、現場の営業担当から「この項目もあった方がいいのではないか」という声が自発的に上がってきます。ここまできたらしめたものです。
まずは必要最小限の管理すべき情報を決め、徐々に情報を増やしていきましょう。
必要な情報が決まったら、SFAの案件管理画面やスプレッドシートの項目をテンプレート化します。テンプレ化するときは、可能な項目をドロップダウン形式にすると、入力者によるブレが出にくくなります。
管理する案件情報の1つに「お客さまからヒアリングできた内容」があります。マケフリ記事「営業ヒアリングシートのテンプレート|各ヒアリング項目も徹底解説」では、ヒアリングシートのテンプレートを無料で公開しています。あわせてごらんください。
属人化解消の進め方3:記入を促す仕組みを作る
情報を記入するメリットがあれば、現場の営業担当者が進んで情報共有するようになります。
すぐに実施できる方法が「上司からポジティブなフィードバックを伝える」ことです。
- 情報を入力した担当者に感謝を伝える
- よい情報・上手い共有をした担当者を賞賛し、チームに展開する
このようなフィードバックができるよう、営業マネージャーはなるべく毎日、営業担当者が記入した情報に目を通しましょう。逆に考えると、「せっかく情報共有したのに誰も見ていない」「悪い共有をしたときだけ注意される」という状態では、現場のモチベーションは低下します。
他にも、営業成績をSFAへの記入内容に基づいて評価するなど、記入しなかった場合にデメリットが発生する仕組みを取り入れることも検討しましょう。
属人化解消の進め方4:よい記入例を用意する
情報共有の方法をチームに展開するときは「記入例」を用意しておきましょう。
たとえば「SFAにBANT情報を入力する」と運用が決まったとします。しかし、現場の担当者は「BANTを記入してください」と言われただけでは、「BANTをどのくらい、どのように書けばいいのか」で悩むものです。
- 一言コメントでいいのか丁寧に書くべきか
- 丁寧に書くとしたらどの程度書くべきか
これらのお悩みが生まれない記入例を用意します。
BANTとは、「予算(Budget)、決裁フロー(Authority)、ニーズ(Needs)、導入予定時期(Timeframe)」の頭文字を取った略語です。「営業のBANTとは?一番わかりやすい入門編」にて解説していますので、あわせてごらんください。
属人化解消の進め方5:意義を伝える
「なぜ属人化を解消すべきか」「なぜその取り組みが必要なのか」を現場の営業担当者全員に伝えましょう。納得しないと人は動きません。
- 営業の属人化を解消する意義
- そのツールを導入する意義
- ある情報を記入する意義
- 記入ルールを設けた意義
裏を返すと、これらの意義を説明できない取り組みは不要な可能性が高いと判断できます。
属人化解消の進め方6:ツールの操作方法の説明とマニュアル化
面倒でも、初めは対面やオンライン会議でツールの操作方法や記入のルールを説明しましょう。加えて、後から見返せるように「説明動画を録画しておく」「操作方法や記入のルールをマニュアル化する」なども大切です。
ただし、SFAやCRMなどのツールを新たに導入する場合、属人化解消の責任者もまだ十分にツールの仕様を理解しきれていないケースがあります。このようなときは、ベンダーのサポートに頼るのも手です。どこまでサポートしてくれるかはベンダーによりますが、社内説明に関するアドバイスをいただけたり、社内説明用の資料を用意していただけることがあります。
せっかくマニュアルを作ったのに使っていただけないのは残念ですよね。マケフリ記事「使いやすい!」と褒められる、業務マニュアルの作り方」では、「使うための」マニュアルの作り方を解説しています。あわせてごらんください。
属人化解消の進め方7:運用を改善する
営業活動の情報共有を進めていくと、
- この情報も欲しい
- この情報はなくてもよい
- この情報だけでは分析できない
- もっと効率よく記入できるようにしたい
などの改善点が生まれるはずです。これらを逐一改善し、改善点をチームに周知し、マニュアルも最新版にアップデートする必要があります。
営業活動の属人化解消は、ツールを導入して終わりではありません。ツールの導入は、むしろ始まりです。根性論のようですが、ツール導入後に責任者が現場を巻き込んでPDCAを回し続けることが、属人化解消の鍵です。