営業の属人化は、いわゆる「俺の客」問題に端を発します。
「俺の客」問題とは、本来「会社のお客さま」であるはずのお客さまが、「営業担当者個人のお客さま」のように扱われている状態のことを指します。
- 名刺情報を営業担当者個人が管理している勝手にメルマガを配信させない
- 他の営業担当者から連絡させない
- どのような提案をしているか共有されていない
これらは「俺の客」問題が引き起こす、営業活動の属人化です。
本記事では、社内の「営業の属人化を解消したい」とお悩みの担当者さまに向けて、営業の属人化を解消するための方法や、社内推進のポイント、営業属人化解消に役立つツールをご紹介します。
この記事のもくじ
営業の属人化とは?属人的な営業組織で起こる問題
営業の属人化とは、営業活動において獲得した顧客情報やノウハウが特定の人以外に共有されず、営業活動が個人に依存している状況を指します。
この章では、属人化が進んだ営業組織で起こり得る問題を、大きく2つご紹介します。
営業の属人化の問題①:情報の引き継ぎが難しい
営業の属人化が進むと、担当者間での情報の引き継ぎが難しくなります。
たとえば、
- 営業担当者が名刺を個別に管理している
- 案件を営業担当者ごとに異なるExcelファイルで管理している
このような場合、特定の営業担当者からしかお客さまにご連絡できない状態が生じてしまいます。
また、営業担当者が休暇を取ったり退職をした場合、他の誰からもお客さまにご連絡できず、取引が途絶えてしまう恐れもあります。これまで営業担当者が時間をかけて関係性を築いてきたお客さまとの取引が途絶えてしまうのは、会社にとって大きな損失ですよね。
このような事態を防ぐために、「顧客情報」や「案件情報」、行動数や商談の質を記録する「活動情報」を紐づけてチームで一元管理し、チームメンバー全員がかんたんに情報にアクセスできる環境を整えましょう。
営業の属人化の問題②:チーム内で成功・失敗ノウハウが共有・蓄積されない
営業の属人化が進むと、チーム内で営業活動のノウハウが共有されません。
営業担当者個人が保有している成功ノウハウがチーム内で共有されないことで、ハイパフォーマーとその他の営業担当者の間でスキルや売上に差が出てしまいます。
ハイパフォーマーに依存した営業活動を続けると、ハイパフォーマーがチームから離れた際に売上が不安定になってしまうため、チーム内でノウハウを共有・蓄積し「他の担当者でも同じように実行できる」ように再現性を高めましょう。
また、チーム内でノウハウが共有されていないと、新人営業担当者は現場で自己流の方法を確立させるまでに長い時間がかかってしまいます。営業活動を成功・失敗パターンを知り、「うまくいく」型を身につけることで成長スピードを上げることができます。
営業の属人化が引き起こされる原因
ここまで、営業の属人化によって引き起こされる問題を挙げてきました。では、営業の属人化を引き起こす原因とは一体なんなのでしょうか?
営業の属人化で考えられる原因を、3つご紹介します。
営業の属人化の原因①:営業プロセスが標準化されていない
営業の属人化の原因の1つとして、営業プロセスが標準化されていないことが挙げられます。
営業プロセスの標準化とは、「アプローチ」「ヒアリング」「クロージング」など、自社の営業活動の進め方(プロセス)の基準を作り、誰もが当たり前に営業プロセスを適切に実行できる状態を作ることを指します。
ハイパフォーマーやベテラン営業担当者の営業活動の進め方を参考に、営業プロセスを標準化することで、営業担当者は「営業活動をこのように進めれば売れる」という基準に沿って行動できるようになります。
営業の属人化の原因②:情報共有・蓄積の体制が整っていない
営業の属人化の原因2つ目は、社内で情報共有の体制が整っていないことです。情報共有の体制が整っていない状態とは、大きく分けて2パターンが考えられます。
まずは、営業活動に関する情報を組織全員で共有・蓄積できる場所がない場合。
営業活動に関する情報を組織全員で共有し、膨大なデータを蓄積するためには、デジタルツールなどを導入し、チーム全員が情報にアクセスできる場所を整備することが大切です。営業の属人化解消に役立つデジタルツールについては「営業の属人化を解消するデジタルツール」の章で解説します。
次に、情報共有のためのツールを導入しているものの、「全員で営業の記録を蓄積していこう」という空気が醸成されていなかったり、営業担当者が商談や架電の対応に忙しく、情報の記録に時間を割けない場合。
このような場合は、情報の共有・蓄積の体制を社内に定着させる取り組みをしなければなりません。社内での情報共有を推進・定着させる方法については「社内での情報共有を推進・定着させる方法とは?」の章にてくわしく解説します。
営業の属人化の原因③:結果至上主義の文化や報酬制度が根づいている
営業の属人化は、組織の文化や報酬制度によって引き起こされることがあります。
たとえば、結果至上主義の文化が根付いている組織や、売上に応じて大きなインセンティブがつくような報酬制度がある組織の場合、「売上を積み上げるために自分の顧客を守りたい」「他の営業担当者に自分が保有するノウハウを共有したくない」という意識が働いてしまいます。
結果的に「名刺情報を渡さない」「勝手にメルマガ配信をさせない」「他の営業担当者から連絡をさせない」「どのような提案をしているか見せようとしない」など営業の属人化が進んでしまいます。
営業の属人化を解消する方法
ここからは、営業の属人化を解消する方法をお伝えします。
営業の属人化を解消する方法①:営業活動の標準プロセスを作る
営業の属人化を解消するためには、まずは自社の営業活動の標準プロセスを作りましょう。
自社の営業活動の標準プロセスは、営業マネージャーなど経験豊富で自社のお客さまの購買行動を知り尽くしている人が作成します。
まずは、プロセスのたたき台を設計し、たたき台をもとに自社のトップセールスやベテラン営業担当者へのヒアリングを実施します。
ヒアリングした営業活動の進め方や成功パターンを標準プロセスのたたき台に反映していくことで標準プロセスを作成を進めましょう。
マケフリ記事「営業プロセスとは?自社の課題を見つけて改善する方法」では、自社の標準プロセスの設計の手順を各プロセスごとにくわしく解説しております。
営業の属人化を解消する方法②:営業プロセスの進め方をマニュアルに落とし込む
自社の営業活動の標準プロセスを作成できたら、次は標準プロセスの進め方をマニュアルにおとしこみ、チームメンバー全員がいつでも閲覧できるようにしましょう。
マニュアルを作ることで、業務やノウハウの再現性を担保したり、標準化を進めることができ、「チーム全員がマニュアルを見て正しいプロセスで営業活動を進められる」状態を作り出すことができます。
「実用的な営業マニュアルの作り方と、作って終わりにしない運用方法」では、「作ってみたけど活用されない」営業マニュアルではなく、実用的なものにするための作り方をまとめました。ご興味のある担当者さまはぜひごらんください。
営業の属人化を解消する方法③:情報を共有するための仕組みを導入する
営業の属人化を解消するためには、情報を共有するための仕組みを導入しましょう。
営業活動の属人化を解消するために、共有すべき情報とは、以下の4つです。
- 顧客情報
- 案件情報
- 活動情報
- 営業ノウハウ
これらの情報を紐づけて一元管理し、チームメンバー全員が情報に簡単にアクセスできる環境を整えましょう。
このような環境を作るには、SFAなどのツールの導入がおすすめです。
営業活動の属人化を解消するツールについては、最後の章で解説します。
営業活動の属人化を解消する方法④:評価制度を設ける
営業活動の属人化を解消するためには、営業活動の結果だけではなく、その結果に至ったプロセスも評価する評価制度を導入しましょう。
営業プロセスを組織内で可視化し、定量的な評価だけではなく、「適切なプロセスで営業活動を進められているか?」も評価することで、結果至上主義の営業活動から脱却し、属人化解消への一歩を進めることができます。
社内での情報共有を推進・定着させる方法とは?
SFAなど、情報共有のためのツールを導入し、現場の営業担当者に「今日からこのツールにこの情報を入力してください」とアナウンスしただけでは、運用は定着しないでしょう。
- 「共有の結果、自分のやり方が否定されるのではないか」
- 「自分が担当するお客さまに他の誰かが勝手に連絡するのは許せない」
- 「自分のやり方を共有した結果メンバーの成績が伸び、相対的に自分の成績が下がってしまうのではないか」
- 「案件への対応で忙しく、情報入力の時間などない」
このような不安や不満を抱える営業担当者もいるはずです。最悪の場合、「ツールを導入したのに誰も利用しない」という事態に陥るかもしれません。
「ツールを導入しただけ」では、現場を巻き込んでの属人化解消は難しくなってしまうでしょう。属人化の解消を推進する側が、現場の感情に配慮して進めると、運用が定着しやすくなります。
この章では、現場の心情に配慮しながら営業活動の属人化を解消を推進する手順をご紹介します。
属人化解消の進め方①:責任者を決める
営業の属人化を解消する責任者を明確にしましょう。もしもSFAやCRMなどの影響範囲が大きいツールを導入する場合、ツール活用促進チームを設立します。
情報共有を始めたばかりのころは、「情報共有によって得られる恩恵」より「情報共有の手間」の方が大きくなりがちです。現場の営業担当者からすると「余計な仕事が増えた」と感じることもあるでしょう。
誰かが矢面に立って推進しないと、属人化は解消されないままです。
属人化解消の進め方②:必要最低限の管理すべき情報を洗い出す
属人化解消のために管理する情報、つまり営業担当者に記入してもらう情報は「必要最小限」でスタートしましょう。「必要かどうかわからないけどとりあえず入力してもらう」運用だと、「入力がめんどくさい」と感じられてしまい、現場のモチベーション低下に繋がるためです。
運用が定着していくと、現場の営業担当から「この項目もあった方がいいのではないか」という声が自発的に上がってきます。ここまできたら、運用の定着まであと一歩です。
まずは必要最小限の管理すべき情報を決め、徐々に情報を増やしていきましょう。
必要な情報が決まったら、SFAの案件管理画面やスプレッドシートの項目をテンプレート化します。テンプレ化するときは、可能な項目をドロップダウン形式にすると、入力者によるブレが出にくくなります。
管理する案件情報の1つに「お客さまからヒアリングできた内容」があります。マケフリ記事「営業ヒアリングシートのテンプレート|各ヒアリング項目も徹底解説」では、ヒアリングシートのテンプレートを無料で公開しています。あわせてごらんください。
属人化解消の進め方③:情報の記入を促す仕組みを作る
情報を記入するメリットがあれば、現場の営業担当者が進んで情報共有するようになります。
すぐに実施できる方法が「上司からポジティブなフィードバックを伝える」ことです。
- 情報を入力した担当者に感謝を伝える
- よい情報・成功体験を共有をした担当者を賞賛し、チームに展開する
このようなフィードバックができるよう、営業マネージャーはなるべく毎日、営業担当者が記入した情報に目を通しましょう。「せっかく情報共有したのに誰も見ていない」「悪い共有をしたときだけ注意される」という状態では、現場のモチベーションは低下します。
ほかにも、営業成績をSFAへの記入内容に基づいて評価するなど、記入しなかった場合にデメリットが発生する仕組みを取り入れることも検討しましょう。
属人化解消の進め方4:よい記入例を用意する
情報共有の方法をチームに展開するときは「記入例」を用意しておきましょう。
たとえば「SFAにBANT情報を入力する」と運用が決まったとします。しかし、現場の担当者は「BANTを記入してください」と言われただけでは、「BANTをどのくらい、どのように書けばいいのか」で悩むものです。
- ひとことコメントでいいのか丁寧に書くべきか
- 丁寧に書くとしたらどの程度書くべきか
これらのお悩みが生まれない記入例を用意します。
属人化解消の進め方⑤:意義を伝える
「なぜ属人化を解消すべきか」「なぜその取り組みが必要なのか」を現場の営業担当者全員に伝えましょう。納得しないと人は動きません。
- 営業の属人化を解消する意義
- そのツールを導入する意義
- 情報を記入する意義
- 記入ルールを設けた意義
これらの意義を説明できない取り組みは不要な可能性が高いと判断できます。
属人化解消の進め方⑥:ツールの操作方法の説明とマニュアル化
面倒でも、ツール導入直後は対面やオンライン会議でツールの操作方法や記入のルールを説明しましょう。加えて、後から見返せるように「説明動画を録画しておく」「操作方法や記入のルールをマニュアル化する」なども大切です。
ただし、SFAやCRMなどのツールを新たに導入する場合、属人化解消の責任者もまだ十分にツールの仕様を理解しきれていないケースがあります。このようなときは、ツールのベンダーのサポートに頼るのも手です。どこまでサポートしてくれるかはベンダーによりますが、社内説明に関するアドバイスをいただけたり、社内説明用の資料を用意してもらえることがあります。
せっかくマニュアルを作ったのに使ってもらえないのは残念ですよね。マケフリ記事「使いやすい!」と褒められる、業務マニュアルの作り方」では、「使うための」マニュアルの作り方を解説しています。あわせてごらんください。
属人化解消の進め方⑦:運用を改善する
営業活動の情報共有を進めていくと、
- この情報も欲しい
- この情報はなくてもよい
- この情報だけでは分析できない
- もっと効率よく記入できるようにしたい
などの改善点が生まれるはずです。これらを逐一改善し、改善点をチームに周知し、マニュアルも最新版にアップデートする必要があります。
営業活動の属人化解消は、ツールを導入して終わりではありません。ツールの導入は、むしろ始まりです。ツール導入後に責任者が現場を巻き込んでPDCAを回し続けることが、属人化解消の鍵です。
営業活動の属人化を解消するデジタルツール
営業の属人化を解消するには「顧客情報・案件情報・活動情報・営業ノウハウ」の4つの情報を共有する必要があります。
「すべての情報を紙に書く」ことも不可能ではありませんが、非常に手間がかかります。デジタルツール利用はほぼ必須です。
この章では、営業活動の属人化を解消する主要なデジタルツールをご紹介します。
Googleスプレッドシート
有料のツールを導入するのが難しい場合、Googleスプレッドシートなどの表計算ソフトで案件管理を始めてみましょう。営業担当者に情報入力に慣れてもらう、という意味でも、スプレッドシートから始める選択肢はあり得ます。
ただし、スプレッドシートはあくまでも表計算ソフトであり、顧客情報や営業案件を管理する専用のサービスではないことに留意しておきましょう。
- 誰かが記入フォーマットを崩してしまう
- 最新のファイルがどれかわからなくなる
- 顧客情報が増えすぎてファイルが重くなってしまう
スプレッドシートで案件を管理すると、いずれ上記のようなお困りごとが発生する恐れがあります。このような場合は、後述するSFAなどの案件管理ツールを検討しましょう。
マケフリ記事「Excelで顧客管理する方法とテンプレートが不要になるExcelの技」では、Excelで顧客管理をする際の便利機能や注意点を解説しています。あわせてごらんください。
SFA
SFAとは、Sales Force Automation(セールス・フォース・オートメーション)の略語で、日本語で「営業支援システム」と呼ばれます。SFAは「営業活動の属人化解消」の文脈でもっとも名前が挙がるツールです。
多くの企業が様々なSFAを提供していますが、どのSFAも「顧客管理」「案件管理」「活動管理」の3つの機能を備えています。
SFAの主要機能からCRMの違い、導入で失敗しないためのポイントを「SFAとは?メリットや機能、MA・CRMとの違い|基礎知識を解説」で解説しています。SFAの基本をしっかり学びたいみなさまにおすすめです。
名刺管理アプリ
名刺管理アプリは、紙の名刺をスキャンし、デジタルに管理するためのサービスです。営業担当者の引き出しや名刺フォルダに名刺が眠っている状況を解消できます。
社内にデジタル化されていない名刺がある場合、まずは名刺管理アプリを使って名刺情報をデジタル化するところから顧客管理を始めてみましょう。
多くの名刺管理アプリは、単に名刺をデジタル化するだけでなく、以下の機能も備えています。
- 名刺の自動更新・組織ツリーの作成・タグ付けによるグルーピングなどの名刺情報を整理する機能
- メルマガ配信や商談管理・タスク管理などの、名刺情報を活用する機能
- SFAやマーケティングオートメーションなどの、名刺情報をより活用するツールと連携する機能
- スマホの連絡先と連携して、着信時に名刺情報を表示してくれる機能
名刺管理アプリには、有料のものから、無料のものもあります。名刺管理アプリがどんなものか知りたいのであれば、無料の名刺管理アプリをとりあえず使ってみることをおすすめします。
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