営業プロセスは、営業におけるリード獲得から受注までを可視化したものです。営業プロセスを可視化することで、企業の課題点や進捗を数値で明確にできるメリットがあります。そのため、営業の成績に伸び悩んでいる企業や、ある程度の成績は出しているもののムダな部分がどこか明確にわからないなどの企業にとって、営業プロセスの可視化は効果的です。
本記事では、営業プロセスの基本的な情報、得られる効果、フレームワークについて解説します。営業プロセスの理解を深め、営業成績に反映させるためにもぜひ参考にしてください。
この記事のもくじ
営業プロセスとは
営業プロセスとは、リード獲得から受注にいたるまでに踏むべき過程を可視化したものです。営業にはアプローチやヒアリング、クロージングといったいくつかのステップがあります。営業プロセスを可視化することで、各ステップにおけるデータ等を把握しやすくなり、自社の課題や強みが明確になるでしょう。
営業プロセスと似た言葉に営業フローがあります。営業フローとは、営業活動全体の流れの中で、ステップごとに行う具体的な手法を可視化したものです。営業プロセスは営業活動全体の流れを可視化し、営業フローは各工程をさらに掘り下げて手順などを可視化します。可視化するという点においては同じですが、可視化する部分が異なる点が営業プロセスと営業フローの違いです。
営業プロセスを可視化することで得られる効果
営業プロセスを可視化することで、以下のような効果を得られます。
営業プロセスでは、営業活動における手順や数値などを細かく可視化します。可視化することで数値から強みや課題点を把握することが可能です。課題点を改善できれば、営業の効率化や企業の利益増加につながるでしょう。
また、可視化は営業メンバーの活動内容や成績を正確に把握するためにも役立ちます。これにより、独自のやり方で営業をしている人などを見つけ、改善に導けるでしょう。営業プロセスを可視化して一連の仕組みを統一すれば、結果的には営業スキルやマネジメントの標準化につながります。
ボトルネックの発見
ボトルネックを発見するためには、営業プロセスの可視化が欠かせません。ボトルネックとは、営業プロセスのなかで業務の停滞や生産性の低下を招いている工程・箇所のことです。ボトルネックを発見できれば、それを改善することで営業プロセスの最適化が図れます。最適化が実現すれば、業務効率化や業績向上にも期待できるでしょう。
営業スキルの標準化
営業プロセスを可視化することで、ボトルネックなどの課題点を発見でき、その結果プロセスの最適化が図れます。営業プロセスを最適化したのち、そのプロセスに沿って各営業担当者が営業活動を実施すれば、業務内容や営業スキルの標準化につながるでしょう。
また、各営業担当者が独自に活動しており、スキルやプロセスが属人化している場合には、可視化が高い効果を生みます。たとえば、属人的な営業組織になっていると成績のよい人と悪い人の差が大きくなりやすいですが、営業プロセスを最適化してそれに準ずるようになればその差を埋めることが可能です。差を埋めることで、営業部門全体の成績向上につながり、企業の売上向上に直結します。
マネジメントの標準化
営業プロセスを可視化することで、各営業担当者を管理する側の業務も標準化できます。可視化すると各工程における担当者の進捗を正確に把握できるようになるでしょう。これにより、マネジメント業務のメインとなる各担当者の行動管理の標準化が可能です。
またマネジメントの標準化が実現すると管理業務が効率化し、管理者から担当者へのアドバイスや支援に使える時間が増えます。その結果、営業活動の質向上や全体の業務効率化につなげられるでしょう。
営業プロセス作成の方法
営業プロセスの作成方法は以下の通りです。
- 営業の流れをシンプルにわかりやすくまとめる
- 具体的な行動を記載する
- 顧客ごとに営業プロセスを作る
- PDCAを回して振り返りを行う
これらの方法を作成時に取り入れることで、可視化した際に活用しやすくなります。
営業の流れをシンプルにわかりやすくまとめる
営業プロセスは各担当者や管理者など様々な人が確認します。そのため、誰が見てもすぐに理解できるようにシンプルにわかりやすくまとめておくことが大切です。成果の高い人を参考にした営業プロセスをわかりやすくまとめられれば、営業成績が悪い人の業務改善にも役立つでしょう。
具体的な行動を記載する
営業プロセスを可視化する際には、各工程を具体的な行動まで落とし込んで記載してください。わかりやすく作成しても、内容が表面的では意味がありません。具体的にどのような行動を起こすべきなのか理解できるように記載することで、個々人で認識の違いが発生する可能性を抑えられます。
顧客ごとに営業プロセスを作る
顧客ごとに営業プロセスを作ることで、さらに営業効率を高められます。営業プロセスを合理的に作成してあったとしても、顧客によってはイレギュラーな対応が最善とされることもあるでしょう。
たとえば、顧客によってはアポ取りよりも前にヒアリングを実施した方がよいケースも考えられます。変更内容は営業担当者の判断に委ねられることになるため、管理者はプロセスの変更にあたって客観的な視点で変更内容が適切か判断することが大切です。
仮に、顧客ごとに営業プロセスを作成した場合、その内容が通常の営業プロセスとどのように違うのかまとめておきましょう。そうすることで、その顧客に関わる営業担当者が変わったとしても、その内容を素早く理解することにつながります。
PDCAを回して振り返りを行う
営業プロセスはPDCAを回して定期的に最適化を図ることが重要になります。営業方法は世間のニーズや商品の内容によって少しずつ変わってくるため、数年前から活用しているの営業プロセスが最も効果的とは限らないからです。定期的に営業プロセスを見直す機会を設け、成績のよい営業担当者の意見などを交えながら、最適化を図りましょう。
営業プロセスにおけるフレームワーク具体例
営業プロセスにおけるフレームワークとして、以下の12種類をご紹介します。
- BANT
- 3C分析
- SWOT分析
- 4P分析
- PEST分析
- STP分析
- DMUマップ
- FABE分析
- VRIO分析
- ロジックツリー
- バリューチェーン分析
- ファイブフォース分析
フレームワークとは、目標達成や経営戦略、課題解決に役立つ思考の枠組みのことです。活用することで、業務効率の向上や情報の詳細な視覚化、迅速な課題発見につながるでしょう。
BANT
BANTとは、法人向け営業におけるヒアリングの際、顧客のニーズを把握するために用いられるフレームワークです。BANTは以下4つのワードの頭文字を取っています。
営業の際、それぞれの項目をヒアリングすることで、案件の優先度や受注確度を判断できます。たとえば、それぞれの項目において以下のような質問をすることで、各項目における回答が得られるでしょう。
- Budget(予算):現在の予算はいくらですか。
- Authority(決裁権):システムやサービスの導入を決定するのは誰ですか。
- Needs(ニーズ):現在のシステムやサービスにどのような課題がありますか。
- Timeframe(導入時期):システムやサービスを導入したい時期はいつですか。
顧客のニーズを把握するためにも、営業プロセスにおけるヒアリングの工程に組み込んでみてください。
3C分析
3C分析とは、マーケティング戦略の策定や事業計画の立案において用いられるフレームワークです。3Cは以下3つのワードの頭文字から取っています。
- Customer(顧客)
- Competitor(競合)
- Company(自社)
これら3つの観点から市場環境を分析することで、自社の強みや弱みを把握し、戦略を立案する上での課題を導き出します。分析する内容は以下の通りです。
- 顧客:顧客のニーズや課題、顧客の購買行動、顧客の競合他社に対する評価 など
- 競合:競合他社の商品やサービス、競合他社の価格戦略、競合他社のマーケティング戦略 など
- 自社:自社の強みや弱み、自社の資源や能力、自社の経営戦略 など
3C分析は、マーケティング戦略の策定や事業計画の立案において基本的なフレームワークとして広く用いられています。自社の強みや弱みを正確に把握し、戦略を立案する上での課題を導き出すために、ぜひ活用してみてください。
SWOT分析
SWOT分析とは、企業や事業の現状を把握するために用いられるフレームワークです。SWOTは、以下4つのワードの頭文字から来ています。
SWOT分析は、自社の強みや弱み、機会や脅威を把握する際や、自社の戦略や目標を立案する際などに利用します。企業や事業の現状を把握するための基本的なフレームワークとして広く用いられているため、市場調査等をする際のフレームワークとして活用してみてください。
4P分析
4P分析とは、マーケティング施策を立案する際に用いられるフレームワークです。以下4つの要素を分析することで、自社の強みや弱みを正確に把握し、具体的なマーケティング施策を立案できます。
- Product(製品):自社が提供する商品やサービス
- Price(価格):自社が提供する商品やサービスの価格
- Place(流通):自社が提供する商品やサービスを顧客に届ける方法
- Promotion(販促):自社が提供する商品やサービスを顧客に認知してもらうための活動
また、4P分析を行う際には、以下の点に注意しましょう。
- 自社と競合他社の状況を客観的に分析する
- 各要素を具体的な事実に基づいて分析する
- 各要素の関連性を考慮して分析する
客観性、具体性、関連性を意識して活用することが重要です。自社の提供するサービスや提供形態などを正確に分析したい際にはぜひ活用してみてください。
PEST分析
PEST分析とは、自社を取り巻く外部環境を分析するフレームワークです。以下4つの要素を分析することで、自社にどのような影響があるのか、機会と脅威の両方から把握できます。
PEST分析を実施する際は、客観的な視点や最新の情報、各要素の関連性が重要なポイントです。マーケティング戦略の策定や事業計画の立案において、基本的なフレームワークとして広く用いられているのでぜひ活用してみましょう。
関連記事:PEST分析の手順とノウハウを実例で学ぶ
STP分析
STP分析とは、以下3つの要素からなるマーケティングのフレームワークです。
- Segmentation(セグメンテーション):市場を細分化すること。主に、地理的な要素や人口統計的な要素、心理的な要素などを細分化して分析する
- Targeting(ターゲティング):セグメント化された市場から、自社が注力する顧客層を決定すること。市場の規模や成長性、競合他社の状況などについて分析する
- Positioning(ポジショニング):自社を競合他社と比較して、どのような価値を提供するのかを明確にすること。ポジショニングを行うことで、自社商品やサービスの競争優位性を明確にできる
上記3点を決めることで、事業性の高い市場で優位な自社製品の戦い方を見出すための分析です。以下の画像のように、空白地帯を探すなどして自社の戦い方を決めていきます。
STP分析は、製品やサービスの戦略や計画の骨子そのものです。よいSTP分析で、収益性の大きな製品戦略をつくるためには、PEST分析で事業環境をしっかりと把握し、ファイブフォース分析で競争環境を理解したうえで、3C分析で自社の強みをしっかりと把握するという事前準備が大切です。
DMUマップ
DMUマップとは、顧客の意思決定プロセスを可視化した図のことです。DMUとは、Decision Making Unitの略で、顧客の購買に関する意思決定者や意思決定関与者のこと。DMUマップは、顧客の意思決定プロセスに影響を与えるすべての人や組織を特定し、それぞれの役割や関係性を把握するのに活用します。
DMUマップを活用することで、顧客の意思決定プロセスを正確に把握できるため、製品を売り込む際のアプローチ手順が明確になるでしょう。効果的なマーケティング施策を立案したい場合に最適ですので、顧客に合わせて使用してみてください。
FABE分析
FABE分析とは、商品・サービスの特徴や価値を分析するフレームワークです。以下4つの頭文字を取ったもので、それぞれの要素を整理することで、商品・サービスの訴求ポイントやベネフィットを分析できます。
- Feature(特徴):商品やサービスの具体的な特徴やスペック
- Advantage(優位性):競合他社と比較して優れている点
- Benefit(顧客便益):顧客にとっての価値やメリット
- Evidence(証拠):Benefit(顧客便益)を裏付ける根拠やデータ
FABE分析によって、商品やサービスの訴求ポイントを明確にできます。また、それらをもとに効果的なマーケティング施策の立案も可能です。顧客にとって利益を感じやすいアプローチができるようになる可能性を高められるのがFABE分析なので、「相手の反応自体は普段から悪くないが、うまく成果につながらない」といった場合にぜひ活用してみてください。
VRIO分析
VRIO分析とは、事業における内部的な強みの源泉を示すフレームワークです。企業の経営資源を以下4つの視点から分析します。
- Value(経済的価値):経営資源が顧客や市場から価値を認められているのか
- Rareness(希少度):経営資源が他社にどの程度存在するのか
- Imitability(模倣可能度):経営資源が他社にどの程度模倣されやすいのか
- Organization(組織編制):経営資源を活用する組織が、適切に機能しているのか
経営資源を組み合わせた事業における「強み」は、企業戦略論では「ケイパビリティ」と呼ばれています。VRIOは「ケイパビリティ」の4つの要素であり、「ケイパビリティ」の特徴を明らかにするためのフレームワークです。競争優位性を高める戦略を立案するためにも活用してみてください。
関連記事:VRIOとは?一番わかりやすい入門編
ロジックツリー
ロジックツリーとは、ある事柄に対して問題や原因など、その事柄を構成している要素をツリー状に書き出すことで、解決法を導き出すフレームワークです。ロジカルシンキングの手法の1つであり、問題を可視化して分解することによって、複雑な事柄を捉えやすくなります。
ロジックツリーには2つの種類があります。
- Whyツリー:ある問題の原因を探るためのツリー。問題を根本原因まで分解することで、問題の解決策を導き出すことが可能
- Howツリー:ある目標を達成するための方法を探るためのツリー。目標を達成するために必要なステップを分解することで、具体的な行動計画を策定することが可能
現状における営業成績の伸び悩みや課題点が見受けられる際、解決と改善を実現させるのに効果的なフレームワークと言えるでしょう。アプローチで急激に通過率が落ちる、といった特定の事柄を詳細に可視化することで、その事柄に対する理解を深めたい方に最適です。
バリューチェーン分析
バリューチェーン分析とは、企業の事業活動を「主活動」と「支援活動」の2つに分類し、それぞれの活動ごとの付加価値を分析するフレームワークを指します。主活動と支援活動の詳細は以下の通りです。
- 主活動:企業の製品やサービスを直接的に生み出す活動。調達や製造、物流、販売など
- 支援活動:主活動を支える活動。インフラや人材開発、調達・購買など
また、主活動と支援活動は以下の画像のように図示できます。
主活動と支援活動を事業の工程ごとに分析することで、業務効率化や自社の競争優位性の把握が可能です。事業の価値の生み出し方や利益の出し方を理解したい際にはぜひ活用してみてください
ファイブフォース分析
ファイブフォース分析とは、アメリカの経営学者マイケル・ポーターが提唱した、業界における競争状態を明らかにするためのフレームワークです。ファイブフォース分析では、自社がさらされている脅威を以下の5つに分類します。
どの脅威も収益に直結する共通項があります。脅威を正確に把握し、そこから自社の課題点や強みを見つけることで、現時点で求められる改善策を明確にできるでしょう。
また、新規事業への参入や事業撤退の判断材料に効果的な情報を得ることも可能です。自社に強みがあるのはよいことですが、かならず外部からの脅威というものも存在するため、現状を正しく把握するためにもファイブフォース分析を活用してみてください。
まとめ
営業プロセスは、リード獲得から受注にいたるまでに踏むべき過程を可視化したものです。営業プロセスを可視化することで、自社の営業工程を明確にできます。工程ごとに見受けられる課題を把握できるため、営業効率のアップや生産性の向上につながるでしょう。
営業プロセスはシンプルでわかりやすく作り、それぞれの工程を正確に把握できるようにすることが大切です。また、作成する際はフレームワークを有効活用することで、さらに質の高い営業プロセスができあがるでしょう。営業成績が伸び悩んでいる企業にとって、営業プロセスの可視化と改善は必須の項目ですので、積極的に実施していくことをおすすめします。