ポジショニングで売れる。よいマーケティング戦略のためのポジショニングのつくりかた

ポジショニングは、企業が競争市場やお客さまに自社製品の優位性を際立たせることで、競合製品との差別化を狙うためのマーケティング施策です。

ポジショニングは、マーケティング戦略の骨組みを作る、とても重要な位置付けにあります。

売れている製品ほど、マーケターは丁寧にポジショニングしています。この記事では、ポジショニングの定義から事例、実践方法を含めて解説します。

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ポジショニングとは

ポジショニングとは、マーケティング戦略を作る上での一過程であり、 セグメンテーション ターゲティング と合わせて STP分析 のタスク(要素)です。

もう少し噛み砕いて言えば、ポジショニングとは、「市場における自社製品の立ち位置目標」を決めることです。ポジショニングでは、自社製品の主要顧客となるお客さまに対して、「自社の製品をどのように知っていただくか」、「どのように感じていただくか」を定めます。

これから作る製品の方向性を決めるためにポジショニングを行うこともあれば、すでに作った製品のマーケティング戦略を再考するためにポジショニングを行うこともあります。

STP分析について
STP分析は、 セグメンテーション ターゲティング 、ポジショニングの英語の頭文字をとった略称です。マーケティング戦略をつくる際のフレームワークとして知られています。くわしくは「 STP分析とは?戦略や計画で使うテクニックを基礎から紹介 」でまとめてあります。ご参考になれば幸いです。

ポジショニングはマーケティング戦略における目標です。 マーケティング戦略で設定したポジショニングを実現するために、 4P・マーケティングミックスのフレームワーク を駆使します。

マーケティングミックスについてもっと知りたいなら
マーケティングミックスとは、マーケティングの4Pとも言われる、マーケティングでもっとも有名なフレームワークです。マーケティングミックスについては「 マーケティングの4P(マーケティングミックス)とは? 」でまとめました。合わせてごらんいただけますと幸いです。

市場においてポジションがうまく取れるようになると、あなたの製品をもっとお客さまに知っていただけるだけでなく、あなたの製品価値をお客さまにご理解いただけることにつながります。

どんなにすばらしい製品でも、製品の価値をお客さまに理解していただかないことには、売れません。

よいマーケティング戦略とは、うまいポジショニングを設定できることです。

ポジショニングの手順(マーケティング編)

この章では、ポジショニングの手順を説明します。ポジショニングする際は「2つの価値軸」をつかって自社の製品と競合製品の違いを明らかにします。

ここでは、ポジショニングの図の作成方法をご紹介します。

1:ポジショニングの価値軸に使う「価値」を洗い出す

ポジショニングを定めるときの2つの軸を「価値軸」と呼びます。まずは価値軸に使う「価値」を洗い出しましょう。

価値の洗い出しは、自社製品の強みを洗い出すことから始めます。自社の強みが活きないポジショニングは、マーケティング戦略として機能しません。競合優位性のある価値を洗い出しましょう。

ただし、洗い出す「価値」は、お客さまにとっても十分に「価値」と感じられるものでなければいけません。自社製品への思いが強いあまり、「お客さまが感じる価値と自社が考える価値は一致しているはず」と思い込んでいないか、立ち止まって考えることが必要です。

自社の思う価値や強みがお客さまにとっての価値と食い違ってしまわないように、お客さまをよく知りましょう。たとえば、お客さまにアンケートを実施する、お客さまに話を聞くなどの工夫ができます。

「価格が安い」という価値軸は設定しない
価格の安さを価値軸に設定すべきではありません。
お客さまにとって価格が安いことは確かに価値ではあるものの、まずは自社製品が提供できる価格以外の価値を優先します。
高い価値をお届けして、その分の対価を得る。これが事業の基本です。
価格優位性のある製品のポジショニングを考える場合でも、価格の安さ以外の要素を価値軸として洗い出しましょう。

2:ポジショニングの価値軸を磨く

2つの価値を洗い出せたら、価値軸を磨いていきます。

ポジショニングの価値軸は、誰が見ても同じ解釈および尺度で測れるレベルまで落とし込んでみましょう。たとえば、「使いやすい」「気持ち良い」は、価値軸であるものの、あくまでも主観に過ぎないだけでなく、その言葉に揺らぎがあります。

あるお客さまが「使いやすい」について「操作が簡単である」と思う一方で、あるお客さまは「小さくて軽くて運びやすい」と思うこともあります。

「使いやすい」は、「マニュアルを読まなくてもわかる」「ITが苦手でも操作できる」など具体的な表現で言い換えます。

既存の製品についてポジショニングを考えるときには、すでに製品が存在しているため製品そのものの価値を磨き上げることはできません。既存の製品をポジショニングする場合は、以前に設定したポジショニングの価値軸を再考したり、ポジショニングの価値軸を変更したりします。

3:ポジショニングの価値軸を選ぶ

ポジショニングの2つの軸の候補となる要素を抽出して磨いたら、いよいよポジショニングのための2つの軸を選びます。ポジショニングの軸を選ぶ際のヒントを3つご紹介します。

  1. 価値軸は相関がないものを選ぶ
  2. 1軸2価値のポジショニングもある
  3. 価値軸は倫理に反しないものを選ぶ

1つ目のヒントは、2つの価値軸に相関がないようにすることです。

2つの軸に相関があると、ポジショニングの分布が1次元になり、直線上に自社製品と他社製品が並ぶことになります。

たとえば、照明器具のポジショニングの価値軸を、「明るい」と「大きい」と設定してみましょう。一般的に照明器具は大きいほど明るくなるため、この2つの価値軸には相関性があります。

相関性のあるこの2つの価値軸でよいポジショニングを目指すと「とにかく明るくて大きい照明器具を作る」ことになってしまいます。

2つ目のヒントは、ポジショニングの価値軸に使う価値が2つでもよいということです。1軸2価値のポジショニング軸は、同じ市場に競合製品がたくさん存在する場合や、自社製品のブランドが複数ある場合などに使います。

ビールを例に考えてみます。 「コク」の反対に「飲みやすい」という価値をおいた軸を、 「ドライ」の反対に「ソフト」という価値をおいた軸を作ります。

「コク⇄飲みやすさ」と「ドライ⇄ソフト」の2軸で、競合他社製品の位置を確認します。

競合他社商品と重ならない、空白地帯を狙ってポジショニングします。

1軸2価値のポジショニングは、BtoCマーケティングでよく用いられます。BtoBマーケティングなど、競合製品が市場にあまり多くない場合には使う必要はありません。

3つ目のヒントは、反倫理的な価値を避けることです。

価値軸を選ぶ際にはその価値の倫理性および社会性を考慮します。マーケティング戦略を実行するとき、自社製品のメッセージを作る際に広告に出せないようなメッセージになってはいけません。

参考:ポジショニングはSTPの順でするべきか?

ポジショニングは、STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)の順番でする必要はありません。

そもそもSTPとはセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングという言葉の頭文字を並べた言葉であり、手順を説明する名称ではないからです。

マーケティング戦略を考えるときには、ポジショニングを決める前に、セグメンテーションで価値軸を決めてしまうこともあります。ポジショニングとセグメンテーション、どちらが先でも、同時に定めてしまっても構いません。

価値軸の選定の良し悪しがポジショニングの質に大きく左右します。価値軸の抽出および選定は何度も見直しながら、慎重に行いましょう。

ポジショニングの例

みなさまもご存知の製品を例にとって、ポジショニングについての学びを深めていきましょう。

2つの価値軸をつかったポジショニング:iPhoneの例

iPhoneのポジショニングの例をご紹介します。以下はApple社のiPhone発表で、スティーブ・ジョブス氏が説明した内容です。

「スマートフォンは、一般的には、電話とメールとネット、そしてキーボード。これらはスマートではない。そして使いにくい。」

「アップルが望んでいるものは、どんなケータイよりも賢く、超カンタンに使えるもの。これがiPhoneです。」

スティーブ・ジョブス氏は、iPhoneについてのプレゼンの中で、iPhoneのポジショニングをこのように説明しました。ここで提示されている2つの価値軸は「賢さ」と「使いやすさ」です。

従来のスマートフォンは、キーボードが画面の外に固定されていました。また従来の携帯電話は、インターネット利用がスムーズにできませんでした。

iPhoneは従来のスマートフォンと比べて、キーボードを画面内に表示するため、画面が広くて「使いやすい」、そして従来の携帯電話と比べてインターネットが使いやすく「賢い」というポジショニングです。

Apple社は利用者の価値をうまく2つの価値軸に反映して、iPhoneのポジショニングをつくりました。

これまでになかった価値軸を表現する:ダイソン掃除機の例

製品コンセプトや製品価値が、これまでの市場にない場合には、自社製品のユニークな価値をわかりやすく表現するポジショニングが有効です。

ダイソンの掃除機は、「ダイソン 吸引力の変わらないただ一つの掃除機」というキャッチコピーで有名です。従来の掃除機は、使えば使うほど掃除機内にゴミがたまることで吸引力が弱くなります。

ダイソン社は、2つの価値軸を用いるのではなく、「吸引力が変わらない」という新たな価値軸を作ることでポジショニングを確立しました。

自社製品のユニークさを価値軸に設定する場合には、価値軸そのものがお客さまのニーズを必ず満たしていることを確認しましょう。

うまくポジショニングをするために知っておきたい3つのこと

ポジショニングを考える際にはいくつかの注意点があります。

1回の作業だけでポジショニングはできない

ポジショニングは、突き詰めれば「価値を洗い出して、価値軸を2つ選ぶ」。たったこれだけの作業です。ところが、ポジショニングの軸を考え始めると、2つの価値軸がすんなり定まらず、価値軸の洗い出し作業に出戻ることが多々あります。

マーケティングやビジネス系のフレームワークやプロセスを使うときも同じです。1回の作業だけですんなり終わることはほとんどありません。

ポジショニングを考えるときも「価値の洗い出し」、「2つの価値軸の抽出作業」は繰り返すことを念頭において進めてください。

最初は、ポジショニングの価値軸をラフに洗い出して、そして価値軸を選んでみます。違和感や不自然さが見えてきた段階で、再び価値軸の洗い出しに戻りましょう。これを何回か繰り返すことで、丁寧なポジショニングが出来上がってきます。

ポジショニングでは価値の高い場所を狙う

ポジショニングは、「価値軸の空白地帯」つまり他社製品のポジションと重ならない場所を探す作業と思われがちです。しかし、実はただ空白地帯を狙えばよいわけではありません。

価値Aだけが高い場所や、価値Bだけが高い場所は避けましょう。 もちろん、価値AもBも低い場所は避けるべきです。

他社よりも価値が低いことは、お客さまにとっての価値が低いことを意味しています。これでは、マーケティング戦略として実行すべきポジショニングの条件を満たしているとは言えません。

ポジショニングによって自社の製品の市場優位性を見出すためには、自社製品の価値が他社製品よりも高い位置にあることが絶対条件です。

上の図で言うと、右上のエリアをねらうことがポジショニングのセオリーです。

他社よりも価値の低い場所にしか空白地帯がないなら、価値軸を改めて選び直すか、もしくは事業の撤退、事業の効率化などを考えるべきです。

自社の強みや自社の思いではなく、顧客の感じる価値を選ぶ

ポジショニングでは、自社製品のウリや強みを価値軸にしがちです。自社製品の強みやウリが必ずしもお客さまにとっての価値であるとは限りません。

お客さまの欲しいものを作る。これが事業の基本です。

まずは基本に立ち戻り、「本当にお客さまが感じている価値は何か?」を見直してみましょう。実行可能かつ売上に直結するポジショニングを考えるために、客観的にお客さまの価値を見直しましょう。

さいごに

ポジショニングは、マーケティング戦略をつくる上で、製品のプロモーションや流通チャネルに関わる重要な作業です。

市場や顧客ニーズ、競合の動きは年々変わっていきます。今までうまくいっていたマーケティング戦略が次第に機能しなくなることもあります。

ポジショニングは年に1回程度見直すなど、定期的に修正すると良いでしょう。継続かつ安定した売り上げをつくるために、ポジショニングは常に修正するものと考えておきましょう。

※この記事は、2021年10月15日に更新しました。

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