ローボールテクニックとは? 心理学に基づいた交渉術を徹底解説
ローボールテクニックとは、まずは好条件だけを提示して、その好条件に承諾していただいてから、悪い条件を付け加えたり、好条件を取り除いたりする交渉術です。
「交渉を有利に進めたい」
「交渉で損をしたくない」
とお思いなら、この記事でローボールテクニックについて学びましょう。
この記事のもくじ
ローボールテクニックの概要
まずは、ローボールテクニックの概要を紹介いたします。
ローボールテクニックとは
ローボールテクニックとは、まずは好条件だけを提示して、その好条件に承諾していただいてから、悪条件を付け加えたり、好条件を取り除いたりする交渉術です。
「もともと提示されていた好条件が取り除かれたり、隠されていた悪条件が加わったりしたならば、拒否してしまえばいいじゃないか」と思いますよね。しかし、多くの人が、一度承諾してしまったら、その後に条件が変わっても承諾してしまいます。
たとえば、「飲み放題1,000円ですよ」というキャッチについて行ったら、着座した後で、1人2オーダー制・お通し料・サービス料・深夜料金など、追加の料金を説明されたことはありませんか。着座した後に「それなら他の店にするよ」とは、なかなか言い出せませんよね。これは典型的な、ローボールテクニックです。
「ローボールテクニック」という名称は、いきなり投げたら捕球できないような「高いボール(high ball)」であっても、「低いボール(low ball)」から徐々に高さを上げていけば捕球しやすくなる、ということに由来します。
ローボールテクニックを使われた人は、「騙された」と感じてしまいます。ローボールテクニックは、「使うため」ではなく、「使われたときのため」に知っておくべき交渉術です。
ローボールテクニックが効果を発揮するわけ
ローボールテクニックが有効な理由は、「一貫性の法則」という心理法則で説明できます。
一貫性の法則とは、行動・信念・態度などを一貫させたいという、人間の心理的傾向です。「あの人、言ってることがコロコロ変わるよなあ」とは、あなたも思われたくないですよね。人は無意識のうちに、自分の行動や態度に、一貫性を持たせようとします。
一度相手の要求を承諾した場合、その態度を一貫させようと、条件が変わったとしても承諾してしまう傾向があるため、ローボールテクニックは有効なのです。
一貫性の法則を用いた交渉術としては、「イエスセット」も有名です。イエスセットとは、何度も「イエス」と返事をしていると、次の質問にも「イエス」と答えやすくなってしまう、という一貫性の法則に基づいた交渉テクニックです。
あなたが営業職であるなら、イエスセットについても学んでおいて損はありません。
イエスセットについては別記事の「イエスセットとは? 相手から「イエス」を引き出す交渉術を徹底解説」にまとめています。あわせてごらんくださいませ。
【参考】ローボールテクニックとフットインザドアとの違い
ローボールテクニックと類似した交渉術として「フットインザドア」も有名です。ローボールテクニックをよりいっそう理解するためにも、フットインザドアとローボールテクニックの違いを押さえておきましょう。
フットインザドアとは、「ハードルの低い要求」に承諾していただいた後で「ハードルの高い、追加の要求をする」交渉術です。
対してローボールテクニックとは、承諾していただいた後に「その要求の悪条件を明かす、またはその要求の好条件を削除する」交渉術です。
どちらも「一貫性の法則」に根拠がある点は変わりませんが、要求の内容が異なります。
フットインザドアについては別記事の「フットインザドアとは? 本命の要求に承諾していただくための交渉術を徹底解説」にまとめています。あわせてごらんくださいませ。
ローボールテクニックを証明した実験
ローボールテクニックの効果を証明した実験を紹介します。この実験は、アリゾナ州立大学心理学部の名誉教授であり、米国を代表する社会心理学者の1人でもあるロバート・チャルディーニが、学生に対して行った実験です。
実験内容は、「はじめから全ての条件を提示して依頼した場合の承諾率」と「まずは好条件だけを提示し、好条件の依頼に承諾してもらった後で、悪条件を提示した場合の承諾率」を比較する、という内容です。
つまり
A:ローボールテクニックを利用しない依頼
B:ローボールテクニックを利用した依頼
それぞれの承諾率を比較したのです。
「朝の7時から」という条件は、よい条件とは言えません。あなたも、そんな朝早くから実験に駆り出されたくはないですよね。しかし、被験者は、一度「実験に協力する」と承諾しまうと、後に「朝の7時から」という悪条件が明らかになったとしても、拒否することが困難だったのです。
ローボールテクニックを利用すると、ローボールテクニックを利用しなかったときにくらべて、倍以上も、承諾率に差が出たのです。
ローボールテクニックはどのようにビジネスシーンで使われているか
あなたがローボールテクニックを用いられたときに対処できるよう、ローボールテクニックがよく用いられるビジネスシーンを知っておきましょう。
ローボールテクニックを営業に応用した例
ローボールテクニックは、交渉術です。BtoB、BtoCを問わず、交渉が伴う営業活動のシーンで、ローボールテクニックは用いられます。
ローボールテクニックをマーケティングや広告に応用した例
ローボールテクニックは、広告をはじめとしたマーケティング施策においても、よく用いられます。
こんな時は要注意
ローボールテクニックを用いるビジネスパーソンは、ローボールテクニックが相手を騙す手法であり、相手に不信感を抱かせる危険性があることを認識しています。したがって彼らは、交渉相手の不信感を少しでも払拭するため、「偶然を装って」、「謝罪とともに」ローボールテクニックを用います。
「きちんと謝罪する」という対応は、誠意があるようにも思えます。
しかし、このように「偶然を装って」、「謝罪とともに」ローボールテクニックを用いる理由は、「謝罪を受け入れないと、自分が狭量な人間であるように感じる」という人間の罪悪感を利用し、相手に要求を承諾させるためです。
ローボールテクニックの対処法
ローボールテクニックの何よりの対処法は、「ローボールテクニックという交渉術がある」と知っていることです。
ローボールテクニックという交渉術があると知っていれば、「これはローボールテクニックを使われているな」と見破ることができます。ローボールテクニックを見破った上で、「後になって提示されたすべての条件を加味しても承諾すべきか」をあらためて考えましょう。
「一度承諾してしまったしな…」
「ここまで相手に時間を取らせたのに申し訳ないな…」
という配慮は、すべきではありません。
また、ローボールテクニックは、一度好条件に承諾することで、条件が変更されたとしても承諾してしまう、という交渉術です。好条件につられてやすやすと承諾しないように、交渉の場では「他に条件はないか」を考え、全ての条件を明らかにした後で判断する癖をつけておきましょう。
まとめ:ローボールテクニックを用いるのは危険
ローボールテクニックを用いると、相手は「騙された」と感じ、あなたに対して不信感を抱きます。
取引相手との信用が大切な BtoBマーケティングや法人営業、サブスクリプション型サービスでは、特に用いるべきではありません。
ローボールテクニックを用いて一時的に契約を取り付けたとしても、顧客満足は得られず、顧客ロイヤリティやLTV(顧客生涯価値)の向上を望めないからです。
ローボールテクニックは誰に対しても用いるべきではありませんが、顧客との長期的なお付き合いが重要なビジネスモデルの場合は、特に気をつけましょう。