社会的手抜きとは〜大きな組織で起きやすい生産性を下げる心理
組織の人数が増えるほど、生産性は下がっていくことをご存知ですか。集団では、「社会的手抜き」が蔓延します。社会的手抜きを防止し、組織の生産性を高める方法についてご紹介します。
この記事のもくじ
組織の生産性を下げる「社会的手抜き」の概要
社会的手抜きの概要と、社会的手抜きに関する2つの有名な実験・検証についてご紹介します。
社会的手抜きとは?
社会的手抜きとは、「集団で共同作業をするとき、作業に関わる人数が増えるほど手を抜きやすくなる」という心理効果です。
社会的手抜きは、「リンゲルマン効果」や、「フリーライダー現象」とも呼ばれます。
「社会的手抜き」は、「傍観者効果」と似た心理効果です。傍観者効果は、ある事件が起きたとき、自分以外の傍観者がいる場合は率先して行動を起こさなくなる心理効果です。
「人数が増えたら社会的手抜きは避けられないのか」と言えば、そうではありません。社会的手抜きは、限定的な条件下で起きる現象だということが、研究で判明しています。社会的手抜きは、モチベーションの低下を招く特定の課題(仕事)によって起きる現象です。
社会的手抜きの実験1:リンゲルマンの綱引き実験
ドイツの心理学者リンゲルマンは、集団の大きさが変化したときの1人あたりの力量の変化を、綱引きを用いて実験しました。リンゲルマンは、「綱を引く人数が増えるほど、相乗効果で一人ひとりは大きな力が出せる」という仮説を立てていました。
「綱引きをする人数を1人ずつ増やしていき、1人あたりが出す力の大きさの変化を比べる」という実験内容です。
結果は、リンゲルマンの仮説に反し、綱を引く人数に比例して、1人あたりの力が弱まっていきました。
綱を引く人数が8人になると、1人で綱を引いていたときに比べ、一人当たり半分以下の力しか出していないことがわかりました。
社会的手抜きの実験2:ザッカーロの実験
ザッカーロは、「課題の魅力度が社会的手抜きの要因になる」ことを明らかにしました。
彼は、お互いの作業の状況がわかり、お互いに自由に会話ができる状況にある集団において、集団の人数が2人から4人になったとき、ある2つの集団の生産性の変化について調べました。
ある集団の課題は社会的に有意義であり、高い成績をおさめた集団には報酬が出ることを伝えられました。もう1つの集団は「ごく普通の課題」に取り組みました。
社会的手抜きに関する本実験の結果、魅力ある課題に取り組んだ集団は、人数が増えるにつれて集団の生産性が高まった一方で、ごく普通の課題を提示された集団は、人数が増えるにつれて集団の生産性は低下しました。
ザッカーロの社会的手抜きに関する実験からわかることは、ある組織において当事者がその仕事の意義を見出すことで、仕事の生産性を高め続ける要因であることです。
社会的手抜きはなぜ起きるのか?
社会的手抜きが起きる原因は3つあります。「当事者意識の薄れ」「貢献感の低下」「評価への不満」の3つです。
当事者意識の薄れ
「自分がやらなくても他の誰かがやるだろう」という他力本願や当事者意識の低下は、社会的手抜きを引き起こします。
「他の誰かがやるだろうから、自分はやらなくていい」という心理は、傍観者効果から理解できます。
社会的手抜きの原因となる当事者意識の薄れの例をあげます。
深夜の住宅街で、帰宅途中の女性が殺害されました。驚くべき点は、殺害されるまで30分以上あり、目撃者が38名もいたにも関わらず、通報者や救助者は誰もいませんでした。傍観者効果が招く、当事者意識の薄れの典型例です。
傍観者効果が起きてしまう原因は、社会的手抜きの原因を考える上でも参考になります。傍観者効果は、以下の3つの原因によって起きると言われています。
評価懸念とは、行動を起こしたことによる、周りからの評価を懸念することです。評価懸念によって、「行動をして失敗したら、周りからの評価が下がるかもしれない。ならば、最初からやらない方がよい」という判断をしてしまいます。あなたの組織にも、失敗や他人の目を気にしすぎて、能力が発揮しきれていない社員がいないでしょうか。
多元的無知とは、周りの人が行動を起こさないため、事態は緊急ではないと考え、行動を起こさないことです。社会的手抜きも多元的無知と同様に、他の社員に感染します。
責任分散とは、周りと同じ行動を取り、目立たないことで、責任が分散することです。目立つことを嫌う日本人には、特に顕著な傾向です。
貢献感の低下
社会的手抜きの原因として、貢献感の低下があります。
組織が大きくなると、効率を考えて、ある1つの業務を細分化します。業務の細分化は、仕事の全体像を見通すことを困難にし、社員一人ひとりが仕事の貢献感を感じづらくなります。「誰の、何のためにこの仕事をやっているのか」がわからなくなってしまうのです。
また、チーム内での能力差が激しいと、貢献感が低下し、社会的手抜きが起きやすいことがわかっています。能力差が激しいと、努力で埋め合わせができると思わなくなるためです。
評価への不満
人数が増えると、個人が識別しづらくなり、人事は正当な評価が難しくなります。
ハーキンズは、被験者にアイデアを出させる課題を使って、社会的手抜きと個人の識別・評価の関連性について調べました。
実験では、個人が識別できる状態で投入されたアイデアの数と、個人が識別できない状態で投入されたアイデアの数を比較しました。
一方のグループの被験者は、思いついたアイデアを各々紙に書き、一つの箱に投入し、もう一方の被験者は、紙に書いたアイデアを個々人で別々の箱に投入しました。
実験の結果、一つの箱にアイデアを投入したグループは、別々の箱に投入したグループに比べ、アイデアの数が少ないことがわかりました。
この実験では、個人が識別できず正当な評価がされないことは、社会的手抜きの要因になることを示唆しています。
社会的手抜きを防止するには
ここまでは、社会的手抜きがどうして起きてしまうのかをご紹介しました。この章からは、社会的手抜きの防止策をご紹介します。社会的手抜きを防止する方法は3つです。
社会的手抜きを防止するためには、「仕事の重要性を伝えること」「適材適所を意識すること」「適度な能力差のチームを作ること」を意識しましょう。
仕事内容の重要性をきちんと伝える
あなたは、部下に仕事の重要性を伝えているでしょうか。または、あなたは自分の仕事がなぜ重要なのか、理解しているでしょうか。
社会的手抜きは、「自分1人くらい手を抜いてもバレないだろう」という気持ちから生じます。社会的手抜きを防止するには、社員一人ひとりに、仕事の重要性をきちんと伝え、理解してもらう必要があります。
「なぜその仕事が重要なのか」「何のためにその仕事をやる必要があるのか」を伝えましょう。仕事をする意図が伝われば、社員は「自分がやらなくてはダメだ」という気持ちになっていきます。
「適材適所」によって、社会的促進を促す
「適材適所」という言葉があるように、得意な分野では仕事の効率が上がり、苦手な分野では仕事の効率が下がります。「そんなこと当たり前だ」と思われるかもしれませんが、これは、個人の能力によるものだけではありません。得意な仕事を任された社員は、周りの目や評価によって、100%以上の力が発揮できます。
作業をしているとき、周りに他者がいることで作業効率が上がる現象を「社会的促進」といいます。逆に、周りに他者がいることで、作業効率が下がる現象を「社会的抑制」といいます。
「周りに他者がいる」という条件は同じにも関わらず、あるときは社会的促進が起きたり、あるときは社会的抑制が起きたりするのはなぜでしょうか。社会的促進と社会的抑制を分ける要因は、課題の難易度だと言われています。
十分学習し、身についた課題を行う場合、周りに他者がいると「社会的促進」が起こります。得意な課題に取り組むときは、「自分をアピールしたい」という心理が働き、周りの目によって集中力が増加するため、作業効率が上がります。
一方で、苦手な課題を行う場合、周りに他者がいると「社会的抑制」が起こります。失敗への恐れや、緊張感が作業効率の低下を招くと言われています。
適材適所によって、社員一人一人の生産性を高めましょう。
適度な能力差があるチームを作る
チーム内の能力差があまりに大きいと、努力しても無駄だと感じてしまい、社会的手抜きが起きてしまうことは、ご説明しました。社会的手抜きを防止するためには、メンバー内に適度な能力差があるチームを組みましょう。
適度な能力差があるチームを組むことは、社会的手抜きを防止するだけではなく、チーム全体の生産性を底上げする2つの効果が発揮されることがわかっています。
1つ目は、社会的促進が起きることです。チーム内の能力が低い人を、能力が高い人が手助けしようとして、チーム全体で通常よりも高いパフォーマンスを発揮します。
2つ目は、ケーラー効果です。ケーラー効果とは、チーム内で能力が低い人が、作業のボトルネックにならないよう努力し、通常よりも高いパフォーマンスを発揮する効果です。ケーラー効果は、バトンリレーのように、メンバーの能力の下限が、集団の成果に大きく依存する課題において生じやすいです。
おわりに
今回は、社会的手抜きの概要と、防止策についてご紹介しました。組織の生産性向上のため、知識を役立てていただければ幸いです。