マーケティングや営業・販売に関わる人には、セグメンテーションをしっかり理解して、業務に使えるスキルが必要です。
セグメンテーションを上手に使いこなすためには、マーケティングの教科書通りに単に市場を分類するのではなく、いくつかの特徴と注意点を理解しておく必要があります。
この記事のもくじ
セグメンテーションとは?
セグメンテーションとは、買い手の市場やタイプを、売り手にとって意味のある要素で切り分ることをさします。
セグメンテーションの目的は、自社の商品の独自の視点を見つけることと、自社商品の独自の優位性を見つけることにあります。セグメンテーションは、商品開発だけでなく、広告宣伝などのプロモーション、販売戦略でも利用します。
セグメンテーションは、マーケティング戦略策定で使います。セグメンテーションをした後で、セグメンテーションの中でどの市場を狙うか(ターゲティング)、ターゲット市場において自社がどのような振る舞いをするか(ポジショニング)を決めます。
セグメンテーションという言葉は、メルマガの配信リスト作成の時にも聞く言葉です。メルマガの場合、単に配信リストの分割のように聞こえますが、実際には、分割したどのリストに対してどんなメールを送るかを考える上では、上図のように、セグメンテーションだけでなく、ターゲティング、ポジショニングもしていることになります。
セグメンテーションの基本事項
セグメンテーションをマーケティングの現場で活用する時に、よく使うセグメンテーションの要素(変数)をご紹介します。
地理的変数(ジオグラフィック)
セグメンテーションの代表選手とも言える、地理的な変数でセグメンテーションする方法があります。セグメンテーションでは、国や地域、都市/市町村などは、セグメンテーションの「変数」と呼びます。
マーケティング・キャンペーンなどで自社の活動する中心領域を国内や都心部に限定する場合などで、地理的変数を使ったセグメンテーションをよく使います。
インターネットが普及にともない地理的変数によるセグメンテーションの機会は減ってきました。しかしながら、店頭販売、地域限定のプロモーションなど地理的変数はセグメンテーションはよく利用します。
人口統計分布(デモグラフィック)
セグメンテーションの変数に、例えば、年齢や性別、家族構成など、社会的な階層そのものをセグメンテーションの変数として用いることがあります。これらの変数は人口統計分布(デモグラフィック)と呼びます。
住宅や保険などでは、家族構成(独身、既婚、子持ち世帯)の人口統計分布を変数を使い、広告宣伝などのマーケティング活動を目的としてセグメンテーションします。
心理的変数(サイコグラフィック)
セグメンテーションの心理的変数(サイコグラフィック)は、価値観やライフスタイル、性格や好みで分類します。健康志向などの価値観(パーソナリティ)や、アウトドア派などのライフスタイルも、セグメンテーションの心理的変数です。
心理的変数によるセグメンテーションは、最初からお客さまの心理的変数でセグメンテーションできないという特徴があります。アンケートやインタビューなどの手法を使って、お客さまの心理的変数を聞かなくてはなりません。
行動変数
最近は、行動変数によるセグメンテーションが注目されています。
サブスクリプションモデルのサービスや、デジタルマーケティングを手がける企業が増えるにつれて、行動変数によるセグメンテーションをみる機会が増えました。
ヘビーユーザー向け、土日利用者限定などのセグメンテーションは、行動変数を活用したセグメンテーションです。
ある特定のWebページをみた見込み客にキャンペーンのお知らせをメールする。これも行動変数によるセグメンテーションと言えます。
セグメンテーションの使い方
セグメンテーションを作成する上でのテクニックをご紹介いたします。
セグメンテーション変数を2つ選ぶ
セグメンテーションでは市場全体を、ニーズによって細かく分類することが必要です。セグメンテーションを簡単にやるためには、セグメンテーションの変数を活用してください。2つほど選びます。
セグメンテーションの変数だけでは、自社にとって都合の良いセグメンテーションが見えてこないことがあります。その場合には、自社製品のニーズや自社製品の提供価値をセグメンテーションの軸に選定しましょう。
これ以降は、ターゲティングやポジショニングなどのSTP分析と作業が重複しますが、セグメンテーションでも、後工程のことを考慮しておくと、その後の作業が簡単になります。
選んだセグメンテーションの変数で4象限を作る
セグメンテーションの次の作業では、選定したセグメンテーションの変数で、4つの象限を作ります。
上の図では、先ほどのセグメンテーションの例で選んだ2つの変数を具体化しました。
ここでは非常に簡単なセグメンテーションの例を示しています。実際の業務でのセグメンテーションは、それぞれの軸を3つに分類することもあるでしょう。
それぞれの4つの象限にわかりやすい名前をつける
セグメンテーションの最後の作業は、それぞれのセグメンテーションに対して、そのセグメンテーションを象徴するようなネーミングをして見ましょう。
うまくセグメンテーションができているときは、その特徴を示す分かりやすいネーミングが可能です。
セグメンテーションを作ったらチェックする
セグメンテーションの基本的な作り方について学んできました。まだまだセグメンテーションの作り方の続きがあります。
「そのセグメンテーション、実際に使えますか?」
あなたのセグメンテーションをチェックしてみましょう。
そのセグメンテーション使えますか?
セグメンテーションは、商品開発を目的とした場合と、広告宣伝や販売を目的とした場合があります。どちらもセグメンテーションである点では変わらないのですが、両方のセグメンテーションを同時に考えておかなくてはなりません。
例えば、野球のグローブを取り扱う事業を考えましょう。
他社との差別化を目的として、初心者むけの左利きのグローブを開発するとします。
商品開発でセグメンテーションを考えると、初心者向けの左利きグローブはあり得ます。全人口のうちおよそ10人に1人が左利きであると仮定すると、商品として十分に利益を見込める可能性がります。野球人口を考えても、初心者は十分に存在するでしょう。よって、商品開発におけるセグメンテーションとして左利きの初心者は、十分に有効であると結論づけることができます。
セグメンテーションを広告宣伝として考えたらどうでしょうか?10人に1人いる左利きであり、野球初心者のセグメンテーションに到達する、費用対効果の高い方法を考えます。
野球初心者向けの雑誌やスクールの存在によって、野球初心者のセグメンテーションに到達する方法はありそうです。しかしながら、左利きのセグメンテーションに到達する有効な方法はあるでしょうか?左利き向けの野球雑誌などのメディアがあれば、確かに左利きというセグメンテーションに到達できるかもしれません。現状では、左利き専用の雑誌などのメディアはおそらく無いでしょう。
左利きの野球初心者に接触するためには、人工の9割存在するとみられる右利きのセグメンテーションにも同時に接触する必要がありそうです。左利きというセグメンテーションに接触する広告宣伝の費用は右利きとほぼ同じになります。左利きが全体の1割ですから、広告宣伝の費用は割高になると予想できます。
商品開発のセグメンテーションは成り立つものの、広告宣伝のセグメンテーションが割高となるため、収支を考えると事業として難しいことが見えてきます。
そのセグメンテーション、もうかりますか?
先ほどは、セグメンテーションが製品開発の点では十分利益が出るため問題ありませんでした。
しかし時にはセグメンテーションが細かすぎて、そのセグメンテーションに十分な対象顧客がいないため、製品を製造しても利益が見込めないケースもあります。
例えば、山奥の高齢者向けの24時間コンビニ。セグメンテーションとしてはあり得そうです。十分な顧客数を確保できないため、運営費(固定費)が回収できそうにありません。
そのセグメンテーションで勝てますか?
セグメンテーションをうまく切り出したとしても、うまく勝てないことがあります。そのセグメンテーションに対して、自社の強いが活かしきれない場合です。
セグメンテーションの変数は、市場やお客さまのニーズ、自社の強み、競合との関係性を考慮しなくてはなりません。せっかくうまいセグメンテーションを導き出したにも関わらず、そのセグメンテーションを有効に活用できなければ、事業として成り立たなくなってしまいます。
セグメンテーションの事例
さいごに、セグメンテーションの変数の使い方について、セグメンテーションの事例を含めながらご紹介させていただきます。
自動車産業のセグメンテーションの例
自動車のセグメンテーションは、思ったよりも複雑です。自動車の購入は価格以外に、価値観やデザインの好み、ロイヤリティなどが購入の判断材料として考えられます。
自動車の販売には、一般的なデモグラフィックによるセグメンテーション以外に、価値観やデザイン(好み)、ブランドに対するロイヤリティのセグメンテーションにも考慮が必要です。
買い手の価値観は、さまざまです。例えば、自動車のデザイン、自己顕示欲、利用シーンを含む経済性、耐久性など、自動車に見出す価値はお客さまによって大きく異なります。価値観によるセグメンテーションは商品開発にも広告宣伝にも重要と言えます。
デザインによるセグメンテーションは、とても速そうに見える、内装に重厚感がある、などカッコ良い、高級そうなどの視点で考えます。デザインの変更により、これまで利用し続けていただいたファンの期待を裏切ることもあるくらい、自動車においては重要なセグメンテーションと言えます。
ロイヤリティにおけるセグメンテーションは、その自動車ブランドに対する忠誠心のようなものです。ずっと同じメーカーの自動車に乗り続ける人は少なくありません。ある時、値引きの大きさや営業担当者の対応などが原因となって、競合の自動車をどれくらい受け入れる可能性があるかによって、お客さまへのアプローチが変わります。
マーケティング担当者が、セグメンテーションによりお客さまのニーズをしっかりと把握できなければ、間違ったターゲットに向けて広告宣伝をすることで、ほとんど効果が出ないか売上に繋がらないでしょう。
腕時計のセグメンテーションの例
腕時計のセグメンテーションの有効な分類の1つの方法は、価値観によるセグメンテーションと言えます。
腕時計のセグメンテーション
正確であればすぐに壊れても安ければOK 重厚で長年使えて精巧なものを好む層 ファッションとしてデザインを重視する層 大切な人生の節目の記念で時計を購入する
高級腕時計といえども、購入者は所得が高い層だけではなく、記念日や人生の節目に購入する所得が低い層にも購入者がいます。また、高額所得者といっても、安くてデザインのよい時計を好む方もいらっしゃいます。
セグメンテーションをデモグラフィックで分類しただけでは、なかなか市場の全体像は見えてきません。
ただ、これは腕時計のセグメンテーションの1つです。自社のブランドや製法など、強みをセグメンテーションの変数に活用すると、これ以外のセグメンテーションの変数も考えられます。
セグメンテーションは、市場の競合がまだ手をつけてない空白領域と、自社の強みも考慮に入れる必要があります。
さいごに
セグメンテーションはマーケティングや販売に関わるみなさまが知っておきたい項目です。セグメンテーションをうまく使うことで、収益性の高い商品開発や、効率のより販売促進(マーケティング)につながります。
セグメンテーションは、マーケティングの基本事項とも言えます。セグメンテーションの理解を深めて、日常の業務に活用しましょう。