SIPSは、ソーシャルメディアを頻繁に活用する消費者の行動を表した、「生活者消費行動モデル」です。Webマーケターのみなさまや、ソーシャルメディアを活用してマーケティングをしたいみなさまにとって、一読しておいて損はない内容です。
今回はSIPSの概念と、SIPSに当てはめたtoC企業のSNSマーケティング事例をくわしくご紹介します。
- 会議や記事でSIPSの単語を知ったが、よくわからない
- SIPSの概念は知っているが、実務にどう当てはめるのかわからない
この記事を読むことで、上記のお悩みが解決されます。
みなさまのお役に立てば幸いです。
この記事のもくじ
SIPSとは?
SIPSとは、ソーシャルメディアを頻繁に活用する消費者の行動を表した「生活者消費行動モデル」です。2011年に、電通コミュニケーションの佐藤尚之氏をリーダーとした社内ユニットが、SIPSを提唱しました。
SIPSは、それぞれSympathize(共感する)、Identify(確認する)、Participate(参加する)、Share&Spread(共有・拡散する)の頭文字を取った造語です。
従来の消費行動モデルは消費者の「購買」を軸としたモデルでした。しかし現代では、SNSの台頭により個人が容易に情報を拡散できるようになりました。社会の変化に伴い、消費者の参加や共有・拡散を重視した消費行動モデルが登場します。その中の1つが、今回ご紹介するSIPSです。
SIPSの特徴は、Action(行動、購買)に限定したステップがない点です。
たとえば比較的歴史がある購買行動モデル「AIDMA」や「AISAS」では、Action(行動、購買)がモデルに組み込まれています。
しかし、SIPSはAction(行動、購買)を1つのステップとしていません。購買行動はSIPSのParticipate(参加)に含まれますが、Participate(参加)はTwitter上でのいいねやリツイートといった、購買を伴わない行動も含みます。
そのため、SIPSは「購買行動モデル」ではなく、厳密には「生活者消費行動モデル」なのです。
SIPSの4つの要素
まずは、SIPSの4要素について押さえましょう。
Sympathize:共感する
ソーシャルメディアを活用したマーケティングでは、消費者の「共感」をいかに得られるかが重要です。消費者に共感されなければ、その次のステップである「確認」や「参加」も生まれません。実は、SIPSにおける「共感」には明確な定義がありません。そのため、ここからご紹介する「共感」の詳細は、マケフリ編集部の解釈になることを踏まえた上でお読みください。
私たちはSIPSにおける「共感」を「消費者が企業の価値観をよいと感じた際に生じる感情」と捉えています。
たとえば同じ商材を扱う企業のSNSでも、あなたが素敵に思うつぶやきや、商材のイメージ写真を投稿する企業に、好印象を抱いた経験はないでしょうか。SNSでの発信を通じて企業の価値観を知り、その価値観をよいと感じることで、企業に対する「共感」が生まれます。
Identify:確認する
ではなぜ消費者は、「自分が共感した内容は本当に正しいのか」を確認したがるのでしょうか。それは、安心感を得るためです。
最近は、個人、企業を問わず、ソーシャルメディアでは炎上のリスクが付きまといます。下手をすると、キャンペーンに参加することによって、「こんなキャンペーンに共感するなんて信じられない」と思われ、自分が被害を受ける可能性もあります。そのため視聴者は「これは自分が参加しても大丈夫なキャンペーンか」を確かめたいのです。
ユーザーが「確認」から「参加」ステップへスムーズに移行するには、「ユーザーが安心して共感できる環境」を企業が作ることが大切です。安心して共感できる環境を作る方法の1つに、「共感している人の母数を増やす」方法があります。
みなさんは、「社会的証明」という心理作用をご存知でしょうか。社会的証明とは、多くの人が共感しているものや、正しいと信じているものは、よいものだと感じてしまう心理作用です。つまり、「共感する人を増やす」ことは、「安心して共感できる」とユーザーに思っていただける環境を作ることにつながります。
ユーザーが安心して共有できる環境を作る方法のもう1つの方法は、「権威性の法則」を利用することです。権威性の法則とは、権威がある人の言葉は、正しいと信じ込んでしまう心理作用です。したがって、その分野の権威である専門家やインフルエンサーを活用するのも、ユーザーが安心して共感できる環境を作る上で有効です。
Participate:参加する
- いいね
- リツイート
- 投稿への返信
- 高評価
- レビューの投稿
- フォロー
- チャンネル投稿
SIPSにおける参加は、軽い気持ちでできる「いいね」から、実際の購買行動までを広く指します。そのため、「参加」ステップにいる「参加者」も関わり度合いに応じて4つのレベルに分けられます。参加者の4つのレベルに関しては、のちほどくわしくご説明いたします。
なお、共有と拡散の違いは、「人」を見るか「コンテンツ」を見るかにあります。
「共有」において大事な点は、「誰が何をしたか」です。「〇〇さんが結婚した」、「〇〇課長が昇進した」などが共有の例です。共有は、基本的に同質のコミュニティにおいて起こります。「〇〇課長が昇進した」という情報は、会社内では広まっても、ソーシャルメディア上で拡散されることはありません。
「拡散」において大事な点は、「コンテンツが何を伝えているか」です。ソーシャルメディアでは、「猫の形に見える雲の写真」、「結婚を決める前にチェックしておくべき3つのポイント」などの、コンテンツ自体に魅力があるものが拡散されます。拡散においては、人とコンテンツは切り離されており、発信者が「誰」であるかはそこまで重視されません。
また、共有は同質のコミュニティ内で伝播しますが、拡散はコミュニティの壁を超えて伝播する、という特徴もあります。
SIPSの参加者には4つのレベルがある
ここまではSIPS の4つの要素をご紹介してきました。この章では、3つ目の要素である「参加」について、くわしくご説明します。「参加」には、参加者のエンゲージメントに応じて、4つのレベルがあります。
Participant:ゆるい参加者
参加のピラミッドの最下層に位置するのが、Participant(パーティシパント)です。パーティシパントは、「ゆるい参加者」という意味です。パーティシパントは、「自分に関係のあるキャンペーンに参加する」、「軽い気持ちでフォロー、いいね、リツイートする」、「試供品をもらう、試す」といった行動をし、発信者とゆるくつながっている層です。
Fan:応援者
Loyal Customer:支援者
ロイヤルカスタマーは、「会員の長期継続」「商品の継続購入」「企業に対して建設的な改善要望を出す」といった行動をします。
Evangelist:伝道者
エバンジェリストが増えれば、あなたの商品、サービスに関するよい口コミが増え、その口コミが共感を呼び、新規顧客獲得がどんどん楽になります。つまり、参加層の頂点であるエバンジェリストを増やすことは、顧客獲得コストを下げることにつながるのです。
SIPSで理解するSNSマーケティング:「Mr. CHEESECAKE」の事例
この章では、企業のSNSマーケティング事例をSIPSに当てはめご紹介します。SIPSの理解を深める手がかりとなれば幸いです。
「Mr. CHEESECAKE」は、オンラインを中心にチーズケーキを販売する会社です。週2日のみ販売しているチーズケーキは、販売開始後すぐに売り切れるほど人気を集めています。
14.1万人ものフォロワーを持つ「Mr. CHEESECAKE」のTwitterマーケティング事例を、SIPSの各要素ごとにくわしく紐解きます。
Sympathize:共感する
Mr. CHEESECAKEのTwitterアカウントでは、チーズケーキのこだわりやおすすめのアレンジを、写真や動画つきで投稿しています。
投稿される写真は、シンプルかつ洗練されており統一感があります。写真や動画で情報を発信することで、消費者に企業の価値観を視覚的に伝えられます。
Identify:確認する
SNSで消費者から口コミを集めるには、ハッシュタグ付きの投稿の促進が効果的です。消費者が商品を確認する際は、ハッシュタグで検索するケースが多いからです。
Mr. CHEESECAKEでは、自社商品の口コミを引用リツイートしています。引用リツイートすることで、自社アカウントのフォロワーに口コミを認知してもらいやすくなります。
Participate:参加する
Mr. CHEESECAKEでは、Twitterの機能を活用し「ベイクドチーズケーキ」「レアチーズケーキ」のどちらが好みかを投票する企画を行っていました。
参加者の4つのエンゲージメントのうち「ゆるい参加者」に該当する層も気軽に参加でき、発信者とゆるくつながることができます。
Mr. CHEESECAKEでは、「フォロー&引用RT」「ハッシュタグ付き投稿」を条件としたプレゼント企画を行いました。消費者にとって利点のある企画でリツイート数は400以上に達しました。
SIPSで理解するSNSマーケティング:「木村石鹸」の事例
「木村石鹸」はシャンプーやリンスといった洗髪料の他、水回りの掃除用品などを展開している石鹸メーカーです。
Sympathize:共感する
SIPSの「共感」においては、消費者に対し企業のメッセージを明確に伝えることが重要です。
木村石鹸のTwitterアカウントでは、「私たちの考えること」という投稿を消費者の目に留まりやすい固定ツイートに設定するなど、企業がものづくりの上で大切にしている考えことを明示しています。
Identify:確認する
木村石鹸では自社のハッシュタグがついた投稿に限らず、ハッシュタグがついていない投稿も引用リツイートしています。
自社のすべてのクチコミにハッシュタグが付くとは限りません。自社商品の口コミを調べる際は、ハッシュタグで検索するのに加え、商品名でも検索することをおすすめします。
Participate:参加する
木村石鹸では、自社のメルマガの登録リンクをTwitterで紹介しています。「参加」の4つのレベルのうち、「Participant:ゆるい参加者」に属するTwitterのフォロワーから、メルマガの会員といった「Fan:応援者」への移行を促すことができます。
木村石鹸では、消費者がTwitter上で拡散したくなるような工夫を凝らしています。たとえば購入者に自社の商品を届ける際に手紙を添えるといった、心のこもった計らいをしているそうです。
リツイートを促すTwitter企画の開催も重要ですが、消費者が自発的に発信したくなる試みが重要です。
AIDMAやAISASなどの、SIPS以外の購買行動モデル
SIPS以外にも、たくさんの購買行動モデルがあります。その中でも、今回はSIPSと関連のあるAIDMA、AISAS、Dual AISASについてご紹介します。
基本的な購買行動モデルAIDMA
AIDMAは、1920年代にサミュエル・ローランド・ホールによって提唱された、もっとも基本的な購買行動モデルです。多くの購買行動モデルは、AIDMAを参考にして作られています。AIDMAは、Attention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)の頭文字をとった表現です。Memoryを除いてAIDAとすることもあります。
最近では、購買行動の大半がWeb上で行われることも珍しくありません。そこで生まれたのが、後述するAISASやAISCEASのような、Web時代の購買行動モデルです。
AIDMAは1920年代に作られた、購買行動モデルの中でもっとも基本的なフレームワークです。くわしくは「AIDMAとAISASの違いとは?マーケティングに必要な購買行動モデルをわかりやすく解説」にてまとめました。
Web時代の購買行動モデルAISAS
AISASとは、Web上で情報収集や購買行動が可能になったことを受けて登場した、購買行動モデルです。
AISCEAS(アイシーズ)は、AISASモデルをさらに細分化した購買行動モデルです。AISASとくらべて、AISCEASは「検索」と「行動」の間にComparison(比較)とExamination(検討)が追加されています。
AISASは、お客さまが購入時にインターネットを活用した場合を想定した、購買行動モデルです。くわしくは「AIDMAとAISASの違いとは?マーケティングに必要な購買行動モデルをわかりやすく解説」にてまとめました。
SNSを意識した購買行動モデルDual AISAS
Dual AISASとは、SNSやコミュニケーションアプリに対応した購買行動モデルです。Dual AISASはAISASを参考に作られました。
Dual AISASは構造が複雑なため、今回ご紹介している購買行動モデルの中ではもっとも理解が難しいかもしれません。
Dual AISASは、SNSを使ったマーケティングを行いたい担当者であれば、ぜひ押さえておきたい購買行動モデルです。くわしくは、「SNS時代の購買行動モデルDual AISASを徹底解説」にてまとめました。